●在宅ケア支援懇談会 提出 意見書

在宅における「医療行為」について

1.自立と社会参加について
2.安全性について
.看護師依存の生活では限界

「医療行為」から「生活支援行為へ

.「生活支援行為」について
2.退院時研修とヘルパーや教員等の研修について
. メディカルコントロールからメディカルサポートへ
4.訪問看護について


2006年2月15日

 

在宅ケア支援懇談会参加各位

 

人工呼吸器をつけた子の親の会

(バクバクの会)

 

平素は、人工呼吸器をつけた子どもたちや同等のケアを必要としている子どもたちのQOLの向上のためにご尽力いただき、感謝しております。また、このたびは、人工呼吸器をつけて地域で暮らす当事者の意見・要望を発言する機会を設けていただいたことを心から感謝いたします。時間が限られていることもあり、ここに、意見書を提示させていただきたいと思います。ぜひ、当事者の視点に立ち、ともに、今後の方向性についてご検討いただきますように、お願いいたします。

 

在宅における「医療行為」について

 

バクバクの会の子どもたち(バクバクっ子)は、人工呼吸器をパートナーに、それぞれの地域で様々な困難に直面しながらも、年齢に応じた当たり前の社会生活を送りたいと願い、道を切り拓いて来ました。しかし、それらの当たり前の生活を送るための最大の障壁は「医療行為」とされるケアの問題でした。

この問題は、第一に、当事者の自立と社会参加を阻害する。第二に、安全性が低下する。第三に、生活の広がりを考えると、医師や看護師依存の生活には限界がある。の三点に整理できます。

 

1.自立と社会参加について

 

 子どもたちにとって、保育園や学校は、親から離れて友だちと遊びや勉強を共にする最も大切な場であり、自立の力を育む場でもあります。しかし、人工呼吸器をつけ「医療行為」が必要な子どもたちは入園・入学を拒まれたり、親の付き添いを要求されたりします。

 また成人となり、親元を離れて自立生活を始めようとしても、「医療行為」が大きな壁となり介助者が確保できず、自立生活もままなりません。さらに、デイケアや作業所も、「医療行為」が必要だと断られるケースがほとんどです。呼吸器を付けていると文字通り親元で“在宅”生活をせざるを得ません。

 そして、親や家族が介護できなくなれば、当事者の意に反して施設入所か社会的入院を余儀なくされます。こうした現状は、当事者はもとより在宅への移行や脱施設化の流れをはじめとするノーマライゼーション社会の実現にとっても好ましいことではありません。

 

2.安全性について

 

学齢期にあっては、学校への付き添いが求められる。ヘルパーによる痰の吸引も制限付きで、全面的に任せられない。訪問看護は、時間数が限られているし外出等には使えない。このようなことで、親や家族は何をするにも当事者の側に24時間365日付き添わなければなりません。

結果は明らかで、多くの親や家族が慢性的な睡眠不足と疲労を訴えています。人工呼吸器使用者(児)にとって、最も危険な時間帯は深夜です。深夜に疲労や睡眠不足から親や家族が熟睡して人工呼吸器のトラブルに気が付かなければそれまでです。こうした経緯で亡くなった事例をいくつか知っていますし、死に至らないまでも、同様の事例はたいていの親や家族は経験していると思います。

 このように、安全を大儀とする「医療行為」の規定が親や家族を疲労困憊させ、結果として当事者の安全を脅かしている現実を知ってほしいと思います。

 

.看護師依存の生活では限界

 

 最近、保育所・幼稚園や学校等で看護師を配置し親の付き添いをなくす事例も少しずつでてきています。このことは評価すべきことですが、同時に「医療行為」故の看護師配置という側面を見過ごすわけには行きません。放課後、休日、卒業後においては、状況は変わらないのみか、学校教育の中で「医療行為の必要な子は、看護師が付くもの」といった実践教育をしているようなもので、「看護師でないと対応できない」との固定観念が強化される危険性もあります。

デイケアも作業所も看護師がいなければ通えないし、外出や旅行も親や家族の付き添いがなければ行けません。当事者の生活は、当事者の意思ではなく、親や家族の介護力に規定されています。

 

「医療行為」から「生活支援行為へ」

 

.「生活支援行為」について

 

私たちは、上記の問題点を考慮して、在宅で親や家族が行っている痰の吸引等の「医療行為」は「生活支援行為」として親や家族以外のヘルパーや教等も行えるようにすべきと考えています。

在宅療養指導管理料算定に関わる厚生労働省通知(平16.2.27保医発0227001)によれば、在宅療養移行にあたっては、本人・家族に対して、医療機関が療養上必要なケアの方法、注意点、緊急時の措置に関する指導等を十分に行うことが前提となっています。在宅生活へ移行したということは、十分な研修によって、非医療従事者の親や家族がケアにあたっても安全にケアできる状態、つまり、「医療行為」(医師でなければ人体に危害を及ぼす、あるいは及ぼすおそれのある行為)ではなくなり「生活支援行為」になったと解釈するのが自然で、そう言えるような内容の退院時研修とヘルパー等への研修制度の確立を展望しています。

 ただし、私たちは在宅生活における痰の吸引等の「医療行為」を無条件で「生活支援行為」として取扱うべきだと言いたいのではありません。特定の個人のケアに対して、そのケアに対応した研修を受けた者が、その特定の個人に行うケアを実施する場合について「生活支援行為」とすべきだということです。個人に特化したケアにおいては、看護師のように膨大な知識と技術は必要なく、その個人のケアに必要な知識と技術とノウハウで十分安全で快適な生活を送ることができます。会員の中には、こうした内容を小冊子等にまとめ、その子ども独自の『生活便利帳』として、教員、ヘルパー、ボランティア等にケアのテキストとして使ってもらっているケースもあります。

 

2.退院時研修とヘルパーや教員等の研修について

 

退院後の日常生活では、医師や看護師の管理下を外れ、全てのことに親や家族が対応しなければなりません。さらに、環境も病院とは大きく異なっています。したがって、さまざまなケアについて病院内での方法だけでは対応できません。

私たちは、単なる院内研修をもって退院時研修とするのではなく、退院に至るまでに、自宅や戸外の様々な状況下で親や家族が自信を持ってケアを安全に実施できるような内容での研修が必要と考えます。

しかし、残念ながら、人工呼吸器をつけての在宅生活への移行例の増加と反比例して、十分な研修もせず、安易に退院させる例が跡を絶ちません。

これまでの経験から、退院時研修の具体的内容として以下の5項目を考えています。

 

(1)通常のケアはもちろん、ケアに伴う危険性、ミスやトラブルの予防策と対処法。

(2)機器の取り扱いとミスやトラブルの予防策と対処法。

(3)急変時の判断と対処法。

(4)災害時の備えと対処法。

(5)創意工夫や臨機応変な対応を可能にするための人体、機器、消毒・滅菌等の基本的知識。

 

これら5項目の中で、私たちが特に重要だと強調しておきたいことは、ミスやトラブルの怖さです。通常のケアの手技は慣れればそんなに難しいことではありませんが、ミスやトラブルを見逃すと、単純なことであっても、人工呼吸器使用者(児)にとっては命に関わることもあります。したがって、こうしたミスやトラブルも「例外」とせずに日常の「生活支援行為」の一部と位置づけ、過去の事例を参考に予防策を講じ、対処法をしっかりと研修することが大切と考えています。

ヘルパーや教員等も同様な研修が必要と考えています。個々での取り組みはありますが、どうするかは今後の課題です。

 

. メディカルコントロールからメディカルサポートへ

 

 厚生労働省は、在宅生活で実施されている吸引等のケアも「医療行為」であり、例え親や家族であっても「医師法17条」に抵触する、ただし、メディカルコントロール下にあることや研修等の一定の条件を満たせば「違法性が阻却される」という立場をとっています。

 しかし、個々人の在宅生活におけるケアを「医療行為」として医師の管理下におくことは、実質上無理なことです。一方、医師も実際上不可能な管理責任を問われることにもなります。

 また、ケアが当事者の生活と切り離せない関係にある以上、メディカルコントロールは医療の領域にとどまらず、医師の考え方次第で当事者の生活は大きく左右されることになってしまいます。

 医師が当事者の安全と生活を大切にするという視点で関わっているケースでは、当初、世間の常識からすれば非常識だと思われる行動についても、反対されることなくその都度サポートしてもらいながら、生活の幅を大きく広げています。

 こうした私たちの経験から、在宅における医療との関係は、「医療行為」を前提とするメディカルコントロールではなく、当事者の安全と生活を大切にしたメディカルサポートができる関係を構築したいと考えています。

 

4.訪問看護について

 

 訪問看護制度は、病名や自治体によって格差があり、外出には使えない等、問題点も多くあります。病名ではなく状態で、自治体別ではなく全国どこでも、同じ訪問看護サービスが受けられるよう制度の充実を求めていきたいと考えています。

 ただ、訪問看護と「医療行為」の問題は、別の問題として考えるべきだと思っています。これまで述べてきたように、在宅における痰の吸引等のケアを「医療行為」と規定するにはあまりにも多くの問題があります。

 私たちは、訪問看護師が、「質の高いケアの提供」とともに、危険性を回避する方法や質の高いケアの方法を親や家族、ヘルパーや教員等に研修できるシステムをつくっていきたいと考えています。ケアは個々人によってそれぞれ異なり、きわめて個別性の強いものです。訪問看護師だからこそ出来る任務だと思っています。

 現状では、親や家族はともかく、ヘルパーや教等に研修することは難しい面があります。しかし、ヘルパーや教等がケアできなければ当事者の自立もありません。あきらめず、ヘルパーや教等が当事者の生活に必要な全てのケアを安全に行えるような状況を追求していきたいと考えています。今後も日本看護協会の方々をはじめ、関係各位と連携しながら取り組んでいきたいと考えています。