幼稚園死闘編⑩「ハサミ」

息子が幼稚園に通うようになり、オヤジも幼稚園デビューを果たした。幼稚園では歌をうたったり、絵本を読んでもらったり、絵を描いたりするのだが、息子は子どもたちみんなですることのどれもが新鮮だったようで、普段見ることのない表情をしていた。

 

工作の時間はハサミや糊を使う。息子にとっては普通のハサミを使うのが厄介だった。子ども用のハサミの穴に、息子と介助者の指を両方ともは入れられず、大人用のスマートな穴のないハサミは握りづらい。そこで何かそういったモノがないかと、いろいろ探してみると、手のひら全体で握ったり、上から押さえるだけで切れるハサミ『カスタ』を発見した。

 

息子と一緒に使ってみると、サクサク切れて良い感じだった。周りの子どもたちは、普通のハサミで切ることに悪戦苦闘している中、上から押さえて切るタイプの息子のハサミを見て、「これは切りやすそうじゃね」「こんなハサミもあるんじゃね」と言ったり、実際使ってみたりしていて面白かった。

 

そこでふと思ったのが、一般的なフツウのハサミを使えるようになることも大事だが、それでうまくいかないならば、使えるハサミを作ればいいじゃないかと言うことだった。

 

「ハサミに合わせるのではなく、使えるハサミを作る」これは何もハサミに限った話ではなく、行政や学校、制度についても言えることだ。それらは、とかく型にはめたがるが、息子のように型にはまらない者まで型にハメようとする。もはやできないことが悪という時代ではなく、どうすればできるか、知恵を出し合う時代だと思う。そのためには、一方的に型にはめたり、分け隔ててはいけないと改めて感じた。

 

幼稚園のクラスメイトは、息子を通じて普通じゃないハサミがあることを知っている。